致し方ないので、上司お持ち帰りしました



「あの! 童貞素敵だと思いますよ!」

「は、い?」

「私、童貞と出会えるのを待ち望んでいたんです!」

「は、」



 真白さんは口を開けたままポカンと固まった。


 驚くのも無理はない。今まで会社では無関心を貫いて塩対応だった後輩が、童貞だと聞いた途端に前のめりで誘ってくるのだから。


真白さんは身の危険を感じたのか、ゆっくりと身体を後退させた。分かりやすくドン引きしている。


 だけど、そんなこと気にしてなんていられない。


 やっと見つけた。待ち望んだ童貞なのだから。



 イケメンエリート真白さんが、童貞だなんて。誰が想像するだろうか。胸は熱くなり、気分は向上していた。これが、ギャップ萌えなのかな?初めての感情に心が躍っていた。



「真白さんは、その年までなんで童貞なんですか?」

「気遣いの欠片も見当たらないほど、直球な質問だね」

「で、なんでなんですか?」


 前のめりで鼻息を荒くして質問する私に向けて、わざとらしく大きなため息を吐いた。観念したように、ゆっくりと話し出す。



「さっきも言ったけど、俺は女性が苦手なんだ」 

「でも、男が好きなわけではなくて。恋愛対象は女性なんですよね?」

「男性に好意を抱いたことはない。だけど、女性にも。恋愛にも興味がないんだ」

「童貞の自己啓発本は……なんのために?」

「なっ、なんで知って……?!」




 真白さんは耳まで真っ赤に染めた。動揺しているのがみて取れる。触れない方が良いことだったらしい。触れてしまい、申し訳なさが込み上げる。
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