致し方ないので、上司お持ち帰りしました
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私は、ある言葉の呪縛に縛られていた。
23歳を迎えた夏の日。大好きな祖母が死んだ。
祖母は霊視ができる占い師だった。テレビに出たこともあり、自書も出版した。なかなかの売れ行きだったらしい。そんな祖母の最期は突然訪れた。
新卒で入社して仕事に明け暮れていたころだった。母から祖母が危篤だと連絡が入り、慌てて仕事を早退した。なんとか病院のベッドで眠る祖母の最期にギリギリ間に合った。私が到着すると、閉じていた瞼がゆっくりと開いた。
「お、おばあちゃん!? 涼香だよ。わかる?」
「涼香。おばあちゃんは占いはするけど、予言はしないことを知っているね?」
祖母は搾り出した微かな声で言葉を発する。最後の言葉になるかもしれない。みんな固唾を飲んで見守った。
「うん。予言をしたら、その人の人生が変わってしまう。そこまでの責任は負いたくないからって……」
「っ、そうだ。死ぬ前に最初で最後の予言を残そうと思う」
予言は将来起きることを事実として予測する。
占いは将来起き涼香ることを予測して回避するためにアドバイスをする。
似ているようで違うのだが。祖母はいくらお金を積まれても予言はしなかった。その祖母が予言を残すというのだから。我が家にとっては一大事だ。言葉の重みで空気が凍る。
祖母のベッドを囲む家族総出で息を呑み、言葉を待った。
「涼香。あなたは童貞と結婚しなさい」
「は?」
なんて?
聞き間違いだろうか。童貞って聞こえたような。
「童貞と出会いなさい……」
「お、おばあちゃん。童貞って言った? どういうこと? ちょ、詳しく」
「……」
その後、祖母が再び口を開くことはなかった。それが祖母の最後の言葉となった。
大好きな祖母が亡くなり、途轍もない悲しみが押し寄せてきた。優しい祖母との思い出が頭の中で映像として流れ出す。
え、でも。童貞と結婚ってなに?
頭の片隅で祖母の最期の言葉が主張してくる。
いや、私の聞き間違いだ。最期の言葉が「童貞と結婚しなさい」そんなことあるわけがない。
自問自答を繰り返して、1つの答えを導き出した。
祖母の予言は忘れよう。