致し方ないので、上司お持ち帰りしました
「私に助けを求めた理由ってなんですか?」
「あっ。泉さんに助けを求めてしまったな。特にこうして欲しいとかじゃなくて、気づいたら電話をしてしまったというか。俺の本性を知ってるの泉さんしかいないから……」
眉を八の字に下げて、申し訳なさげに言葉を零した。助けを求められて嫌な気はしない。根が真面目な私は正義感が顔を出してくる。
「とりあえず、家にきますか?」
「泉さん家に?! そんなつもりでは……」
「またビジネスホテルに泊るんですか? よれたスーツを何日も着ていたら、他の社員も不審に思いますよ? 家でアイロンかけますから!」
「で、でも。女性の家になんて……」
「そこら辺の女と一緒にしないでください。私、イケメンエリートなんて興味ありませんから」
この場に応じてまだ躊躇する真白さんに、胸を張って言い切った。それでも納得しないようで首を縦に振らない真白さんに言葉を続ける。
「真白さんが童貞だという事実に、惹かれたのは事実です。だけど、女性が苦手な童貞をどうにかしようなんて、そんな腐った女に見えますか? やましい気持ちは一切ないですよ! この状況では、致し方ないと思います!」
「い、泉さん……」
わたわたと慌てる真白さんを不審に思いながら辺りを見渡すと、だいぶ注目の的になっていた。
コンビニにいたお客さんの視線が集まっている。その理由はすぐに分かった。
店内に流れるBGMに負けない声量で「童貞」と二度も口にしてしまったからだ。
すごく見られている。きっと童貞という言葉と、ここにいるすらりとした高身長イケメンがマッチしないからだろう。
どうしよう。気まずい。非常に気まずい。
とりあえず、早くこの場から逃げたい。
集まる視線にたじろぎながら、どうしようかと、頭で考えている時だった。
手首をグイっと引っ張られて、自然と足が一歩踏み出していた。
足が自然と動いたのは、真白さんに手を引かれていたからだ。異性にいきなり手を握られても、不思議と嫌な気持ちにならなかった。
目の前の真白さんは、後ろ姿しか見えないが、耳がゆでだこのように真っ赤に染まっていた。
店内で「童貞」と言われて耳が赤くなったのか。
手を繋いだせいで耳が赤くなったのか。
どちらかは分からなかった。