致し方ないので、上司お持ち帰りしました
「このまま、家に行きますよ?」
一瞬躊躇した様子を見せて、ゆっくり口を開いた。
「……いいのかな?」
「はい。そうだと助かります」
「え。助かるって?」
「あ、実は……私も1人では帰りにくい理由がありまして……」
「帰りにくい理由?」
「えっと、すみません。実は真白さんを持ち帰ったのはやましい気持ちがあります」
正直、楓くんが待ち伏せしているアパートに帰れなくて困っていた。そこで真白さんの電話があったので、少し安心できた自分がいたんだ。
「え、やっぱり。泉さんは童貞キラー?」
私が元彼にストーカーされているという事実を知らない真白さんは、言葉だけを受け取り変な方向に勘違いを走らせている。身体を後ずさりさせた。警戒態勢ばっちりなようだ。
「違います! 童貞キラーじゃないです! 実は、私も元カレに待ち伏せされていて……」
「待ち伏せって?! アパートの前で?!」
「真白さんから電話が来る前にアパートについていたんですけど、うろうろしている元カレを発見しまして」
アパートの前で元カレに待ち伏せされていたことを話した。真白さんは驚いたような表情をして、次の瞬間には申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめん!」
勢いよく謝られた。頭を下げて謝られるが、真白さんに謝られる理由が見当たらない。