致し方ないので、上司お持ち帰りしました





 童貞と言っても真白さんは男だ。上司を持ち帰るなんて経験は初めてで、ドキドキと心拍数も早くなる。


 今更、事の重大さを知っても引き返せない。半ば強引に部屋の前まで連れてきておいて、やっぱりビジネスホテルに行ってください。なんて口が裂けても言えない。



 震える手でなんとか鍵を開けた。いるはずのない上司の真白さんが、自分の部屋にいることが、なんだか不思議で仕方がない。非日常な光景に心臓がドキドキと大きく鼓動していた。自分の家のはずなのに、居心地が悪く感じてしまう。


 真白さんは童貞で女性嫌い。そんな彼にアプローチする気なんてさらさらない。


 これは人助けだ。困っていた上司をお持ち帰りしただけ。そう言い聞かせながら、なぜか高鳴り続ける心臓の音に見ぬ振りをした。
 
 

 
「泉さん、やっぱり俺……」



 私が気まずそうにするのを感じ取ったのであろう。真白さんは言いにくそうにしながら声をあげた。



 私が連れてきたのに、気を使わせてしまったことを反省して、心を落ち着かせるために胸元に手のひらを当てた。


 落ち着け。目の前の男は童貞だから、大丈夫。
 緊張が鳴りやまない胸に呼びかけた。



「大丈夫ですから。狭いですけど……入ってください」

「お、お邪魔します」



 辺りをキョロキョロと見渡しながら、真白さんは緊張してるのか、体は硬直して異様に両肩が上がっていた。


 
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