致し方ないので、上司お持ち帰りしました
――今度こそ。絶対大丈夫。
童貞じゃない彼とだって幸せになれる。
そう。今お付き合いをしている彼氏・花田楓くんは童貞ではない。
25歳。私より3つ年下。経験人数10人(自称)
ルックスもそこそこ。私には申し分のない彼氏だ。
「楓くん。なにかあった? 元気ないね」
「う、うん。ちょっとね……」
二週間ぶりのデートは昼間のファミレスだった。
顔は俯き、明らかに元気がない。言葉数も少なく、聞いてほしいようなオーラがだだ洩れている。嫌な予感が背筋を走った。
「えっと……話なら聞くよ?」
「実は、母が重篤な病気で倒れて」
「……」
服の袖を目元に寄せて、流れてもいないのに涙を拭う仕草をしてみせた。
母が倒れた。それは大変だ。と、普通なら心配をするはずだ。
だけど、私の心は素直に心配するということが出来ない。なぜなら、過去に同じような台詞を吐かれ、お金を貸した途端、音信不通になったことがある。
そしてそれは、1度ではない。2度もある。
苦い経験のせいで、私の中の危険察知レーダーが反応してくるのだ。
いや、まてまて。簡単に人を疑うのはよくない。本当に楓くんの母が倒れてしまったのかもしれない。「だから、一緒にお見舞いにきてほしい。紹介したいんだ」
そうだ。このセリフが待っているのかもしれない。