致し方ないので、上司お持ち帰りしました
秋月さんは口調がきつくなるにつれて、声量もあがっていた。給湯室の外まで響き渡っていたのだろう。
通りかかった男性社員たちが、なにごとかとこちらに集まってくる。男性社員が集まってきたことに気づくと、ハッとして表情をコロリと変えた。眉間のしわは消え、一気に目に涙を潤ませた。
「ご、ごめんなさい。私、わたし……っ。」
さっきまでの威勢はどこへやら。被害者モードに突入している。傍から見れば、泣きながら謝るか弱い後輩と。後輩を泣かせた先輩という構図の出来上がりだ。
「強い怒鳴り声が聞こえたけど、もしかして泉さん? なにがあったか知らないけど、あんな声で怒らなくても……」
男性社員は、嗚咽を漏らす秋月さんをなだめながら私に向けて言い放つ。
おそらく、先ほどの秋月さんの怒鳴り声が聞こえていたのだろう。その声は私じゃなくて、秋月さんです。そう真実を伝えればいいのに、秋月さんが被害者という空気が出来上がっている中、言える勇気がなかった。
この状況の中、弁明したところで、悪者は完全に私だからだ。すでに男性社員を味方につけた秋月さんに敵わないと思った。
秋月さんに味方が集まるのはいつものことだ。
もう、いいや。私の声なんて誰にも届かない。
そう諦めた次の瞬間。
「みんな集まってどうした?」
プライベートの時より、凛とした声。みんなが一斉に振り返ると、いつもの穏やかな表情ではなく、険しい顔立ちをしている真白さんだった。