致し方ないので、上司お持ち帰りしました
ごくり。誰かが唾を呑む音が聞こえた気がした。真白さんが今まで見たことのないような、冷たい目をしていたので男性社員も硬直していた。
「えっと、泉さんが秋月さんに怒鳴って、それで秋月さんが泣いちゃって、」
違う。男性社員が説明した内容を否定したかった。
だけど、言葉に出来ない。すがる思いで真白さんに視線を向けるも、彼とは視線が一行に合わない。
胸が痛い。
秋月さんに嘘をつかれたことよりも、真白さんに信じてもらえないことに、胸がひどく痛む。
真白さんには信じて欲しかった。
「あー。違うよ? 怒鳴り声は秋月さんだから。秋月さん、こっちまで聞こえてきてたから。今度から気を付けて」
「えっと、」
真白さんは淡々と否定した。疑うことなく、私が怒鳴ったわけではないことを分かってくれた。
まさかバレるとは思ってもいなかったのか、秋月さんは目を泳がせた。反論せず口を噤む。
「声で見分けられるよ? 秋月さんが怒鳴ってたよね? 秋月さん。人のせいにするのはよくないよ」
言葉を発しない秋月さんに、真白さんは冷たい口調のまま畳みかける。真白さんは基本的に優しい。会社で怒ることは滅多にない。
そんな彼が、冷たく言い放つので、秋月さんの味方をしていた男子社員も息をのんで見守っている。
立場が逆転してしまったせいか、秋月さんは口を一文字に結んで開こうとはしない。そんな彼女の態度に見かねた真白さんは、秋月さんの味方をしていた男性社員に視線を向けて言い放つ。
「それにお前たちも、社員の声も判別できないのか?」
「秋月さんが怒鳴るはずないと思って……」
「泉さんの話は聞いたのか? 一方の意見だけ聞いて、決めつけるなんてしたらダメだろ」
「……すみません」
普段怒らない真白さんが、淡々と言い放つ言葉には迫力があった。男性社員たちは肩を窄ませ謝っている。