致し方ないので、上司お持ち帰りしました




「みんなもいるし、ちょうどいいや。俺と泉さん。付き合うことになったから」

「え、」 

「え?!」


 驚きの言葉がこだまする。みんなが驚くのは当然だ。しかし、それ以上に私だって驚いていた。

 だって、計画では秋月さんにだけ交際宣言をするっていう話で。皆の前で交際宣言をするなんて計画にはなかった。


「えー! びっくりした。けど、おめでとうございます」

「驚いた。でも、うちの会社恋愛禁止じゃないですもんね」



 驚きの声から祝福の声へと変わっていく。
 ただ一人を除いては――。



 ぎろりとこちらを睨みつける視線を感じる。もちろん秋月さんだ。怖くて視線を合わせることができなかった。


 ひたすらに鋭い視線を浴びて、気づいていないふりを貫いた。
 


 男性社員が去っていき、私と真白さん。そして、秋月さんの3人が残った。
 真白さんは改めて秋月さんと向き合う。


「秋月さん。さっきも言ったけど、俺は泉さんと付き合っている。だから、家の前で待ち伏せされるのは迷惑なんだ」

「え♡ 知ってたんですか? 知ってたのに、帰ってきてくれなかったんですか?」


 さっきまでのしんなりとした表情は消えていた。いつもの調子の秋月さんに戻っていた。話す語尾は上がり、ハートマークが浮かび上がる。

 
「それは、キミがいたから帰れなかったんだよ。他の社員の前で言わなかったのは、最後の優しさだから。また待ち伏せが続くようだと、こちらもそれなりの処置をとるからな?」


 そう言い放つ声は冷たかった。さすがの秋月さんも気まずそうな顔をして黙り込む。

「そういうことだから……」

「本当に好きなんですか?!」


 真白さんが穏便に話を終わらせようとすると、遮るように甲高い声を上げた。

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