致し方ないので、上司お持ち帰りしました





「真白さんは、本当に泉さんが好きなんですか? そんな素振りなかったですけど」

 
 納得しないような顔で問いただす。

 そうだ。真白さんは私のことなんて、好きではない。そんな素振り見られなかったのはそのせいだ。

 どうしよう。やっぱりこんな嘘すぐにばれるのかな。


 
「好きだけど? 俺は泉さんのこと」

 背筋を伸ばして言い放った言葉に、どくん。と心臓が跳ねた。

 その「好き」は嘘だと分かっているのに、ドキドキと心臓が暴れだす。


「今まで特別仲が良かったわけじゃないですよね?! それに、泉さんは、わたしと真白さんを応援していたんですよ? 協力してくれるって言ってたのに!」


 潤んだ瞳で訴えられても困る。正確には言っていない。秋月さんが一方的に頼んできただけで、協力するなんて言ったことがない。

 
「それは俺が悪いんだよ。俺が一方的に好きで、一方的に口説いたから。粘り勝ちってやつ?」


 真白さんが言ったことは事実ではない。秋月さんの怒りの矛先が私に向かないように、言葉を選んでくれての嘘だと分かった。


「あ、今日の仕事終わった後会う話はなしね。泉さんと付き合ってることと、待ち伏せをやめて欲しいことを伝えたかっただけだから」

「……っ」


 秋月さんは、だいぶ引き下がって問い詰めてきたが、ついに観念したらしい。悔しそうに唇をグッと噛みながら、秋月さんはその場を後にした。秋月さんがいなくなった途端、スイッチが切れたように、真白さんは大きなため息を吐いた。




「はあ~。嘘がバレないか、緊張して手汗びっしりだったよ~」



 さっきまでのクールな真白さんは消えていた。身体をふにゃりと曲げて、キリッとしていた目元も緩んでいる。私が知っているプライベートの真白さんだ。



 
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