致し方ないので、上司お持ち帰りしました
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就業時間終了の時刻が迫ると同時に、胸が弾んでいた。ただ真白さんと一緒に帰るだけだというのに、なぜか心が弾んでしまうんだ。
先に仕事を終えた秋月さんに帰り際、ぎろりと睨まれた。他の社員にはきちんと「お先に失礼します」と挨拶をするのに、私にだけは挨拶をしなかった。彼女は態度が極端で分かりやすすぎる。
これからも、同じ営業部で仕事をしていかなくてはいけないのに、やらかしてしまったかな。そう思う気持ちとは逆に、これで秋月さんの機嫌を伺わなくていいんだ。と安心している自分もいた。
「泉さん、お待たせ。帰ろうか」
「はい」
長身でスタイルの良い真白さんはスーツが良く似合う。ちらりと真白さんを見上げると、あまりにも綺麗な横顔だったので、見惚れてしまいそうになる。彼がこちらを向いたので、ふいっとすぐに視線を逸らした。