致し方ないので、上司お持ち帰りしました



 ドラッグストアの後に、食材を買うためスーパーに寄った。普段は1人で買い物をするので、真白さんと並んで買い物をすることが不思議で仕方ない。
 
 
「今日はサバの味噌煮と、豚汁と、ホウレンソウのお浸しにしようかなー」

「え、サバの味噌煮ってお店じゃなくても作れるんですか?」

「作れるよ! ただちょっと時間はかかるけどね」



 男性が作るメニューにサバの味噌煮やら豚汁が出てくるとは思わなかった。仕事で疲れているというのに、手の込んだメニューを作ろうとする意識も高すぎる。


「えっと、サバの臭みを取るネギでしょ! 豚汁にいれる豚肉と……」

「真白さん! 今日、鍋にしませんか?」

「鍋?」

「凝った料理もいいですが、今日はお互い仕事帰りで疲れているし、少し楽をしましょうよ?」



 買い物カゴに入った食材を確認する。ネギと、豚肉はそのまま鍋で使える……。

 あとは野菜を切るのも結構な手間になるから――。


 
「あとは、時短のため、すでにカットされている、カット野菜と鍋の元を買えば完了です」

「カット野菜かあ! 買ったことなかったなー。泉さんといると勉強になるなあ」



 真白さんは感心したように何度も頷いていた。
 彼が考えていたメニューを変更したのに。


 私の意見を否定することなく、すんなりと受け入れてくれた。今まで付き合った人は、まず否定してくるし。なにかと難癖をつけてくる人が多かった。穏やかな真白さんと比べて、安らぎを感じてしまう。
 


 ただ買い物をしているだけなのに、心は幸福感に満ち溢れていた。


 
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