致し方ないので、上司お持ち帰りしました
裕也さんと話す真白さんは、口調が男言葉だからか、普段より男っぽくみえた。
しばらくすると、裕也さんの早口トークにも慣れて普通に話が出来るようになった。
「真白さんと裕也さんって、タイプ違いそうなのに、仲がいいんですね」
「そう? そう見える? それって、真白を童貞っていう固定観念で見てない? こいつ、童貞なだけで普通に男だよ? 下ネタだって……」
「裕也! やめろ!」
真白さんの声が裕也さんの話を遮った。「泉さんの前で余計なこと言うなって言っただろ?」小声でいうと、顔を真っ赤に染めていた。
「男女が同居ねー。何事も起きないとかあるんかな?」
「俺と泉さんは大丈夫だよ? ね? 泉さん!」
「は、はい。大丈夫です……」
歯切れが悪くなってしまうのは芽生えていた感情を押し殺すためかもしれない。
「まっ、がんばんなよ? 俺は泉さん応援しているから」
「ど、どういう意味ですか?」
「さーね?」
意味深な言葉に、全て見透かされていそうだと感じた。
家具の配置まで手伝ってくれた裕也さんは、引っ越し作業が終わると同時に帰って行った。きちんとお礼をしたかったのに、嵐のように去っていった。
アパートから全てのものを移動することが終了した。あとは部屋を引き払うのみ。明日、退去立会いで訪れるのが最後だ。
「泉さん、明日退去立会いだよね?」
「はい。11時からの予定なので、行ってきますね」
「俺も行くから!」
「え? 1人で大丈夫ですよ?」
「ダメだよ! 元カレが待ち伏せしてたらどうすんの! まあ、とにかく一緒に行くから」
せっかくの休日というのに、退去立会いについて来てくれるらしい
真白さんの優しさに甘えさせてもらう予定だ。
不安だった同居生活も、真白さんとの生活にリラックスを覚え、安らぎを感じてしまっている。
部屋を引き払ったら、帰る家はこのマンションしかない。なのに不思議と不安はなかった。