致し方ないので、上司お持ち帰りしました




 同居生活をして数週間が過ぎた。
 

 カーテンの隙間から朝日が差し込み、自然と目が覚めた。朝晩と真白さんが作ってくれる栄養満点のご飯を食べて。一人暮らしの時より、遥かに規則正しい生活を送るうちに、朝の目覚めが格段に良くなった。


 ゆっくり背伸びをして身体を伸ばすと、喉に猛烈な渇きを感じる。のどを潤したくてキッチンへのそのそと移動する。
 
「あ、泉さん。おはよー」


 リビングから顔を出したのは、スーツに身を包む真白さんだ。まだ早朝というのに髪の毛はセットされて肌はつやりと輝いている。


「おはようございます。今日は早いんですね」


 朝から綺麗な顔の真白さんとは正反対に、私は寝ぐせ満載。パジャマ姿のまま会話を繰り広げる。


 寝起きのすっぴんを躊躇なく見せられるくらいに、真白さんとの生活に馴染んでいた。
 


「今日は急ぎの案件があってね」

「ふわー。がんばってくださいねー」


 真白さんに心を許しすぎて、あくびをしながら返事をする。

 
「あ、朝ごはんあるから、レンジであたためてから食べてね」

「わーい。いつもありがとうございます」

「泉さんも遅刻しないようにね。いってきます」

「いってらっしゃい」


 最近まで、ただの上司と部下の関係だったのに「いってきます」「行ってらっしゃい」の挨拶をすることも、あたりまえになっていた。
 

 
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