致し方ないので、上司お持ち帰りしました





 寝ぼけまなこでキッチンに向かうと、完璧な朝食が用意されていた。焼き鮭にだし巻き卵。味噌汁まである。


 料亭の朝ご飯じゃん。
 キッチンに目を向けると、洗い物は残っておらず、シンクは綺麗なままだった。



 本当に完璧だ。

 真白さんは非の打ち所がない。家事も料理も得意で、嫌な顔せず自らしてくれるところもポイントが高い。

 同居生活が進むにつれて、嫌な部分が見つかるかと思っていたのに。本当に欠点が見当たらないのだ。

 一緒に過ごす時間が増えるにつれて、惹かれる要素しか見当たらない。

 
 だけど、真白さんはだめなんだ。女性が苦手なんだから。好きになってはいけない相手。


 芽生えてしまいそうになる邪な気持ちを打ち消すように何度も唱えた。


 いそいそと準備をして、真白さんが作ってくれた朝ご飯を食べる。
  

「あったかい」


 ほんのりと熱が残るご飯はあたたかくて、誰かが自分のために作ってくれた料理がこんなにも美味しいものなのかと実感させられる。



 最高すぎる生活。一人暮らしのころは自炊する気力なんて存在せず、コンビニ弁当や、インスタント麺ばかりだった。



 綺麗な部屋に住めて、朝晩のご飯付き。おまけに家事はしなくて良い。


 都内のホテルより、至れり尽くせりだった。


 ただ、この幸せは期間限定。
 ストーカー被害が収まれば終わってしまう。


 私たちの交際宣言をして以来、秋月さんはマンションで待ち伏せをすることはなくなった。会社でも真白さんに迫ることはなく、おとなしかった。


 私はというと。楓くんからの着信も、だいぶ減っていた。
 
 当初の作戦が成功しているのかもしれない。
 互いのストーカー問題が解決しつつあるのだ。
 
 ということは。この生活も終わりが近づいているのかもしれない。わかっていたはずなのに、なぜか寂しさを覚えながら、身支度を整えた。


 

< 61 / 111 >

この作品をシェア

pagetop