致し方ないので、上司お持ち帰りしました
「泉さん。……終わりました。お昼行きますね」
「え、あ、ありがとう。共有ファイルにいれてくれた?」
「……」
確認したくて共有ファイルの有無を聞いたのだが、なぜか黙り込む。不審に感じて問い詰めようと口を開いた時だった。
「泉さーん。外線でお電話です。中丸食品株式会社の佐藤専務です」
「はーい」
口を開く寸前に電話が来てしまった。よりにもよって取引先の佐藤専務だ。
「あ、秋月さんごめん。ちょっと待っていてくれる?」
「……お疲れ様でした」
「あ、ちょっと!」
秋月さんは足早に席から離れていった。取引先の佐藤専務を待たせるわけにもいかず、秋月さんを追いかけることはできなかった。仕方なく秋月さんのことは諦めて電話に出た。
思った以上に佐藤専務との電話が長引いてしまった。やっと終わった頃には疲労を感じてげんなりだ。
ため込んでいた急ぎの仕事が片付いて、トイレに席を外していた。部署に戻るとなにやら不穏な雰囲気が漂っている。