致し方ないので、上司お持ち帰りしました
いつもなら言い返さないが、今日ばかりはどうしても許せない。秋月さんに向き合って言葉を投げる。
「秋月さん。仕事はしっかりしてくれると信じてたよ?」
「……」
「私が頼んだから、嘘をついたの? こういうことがあると、今後の仕事に影響がでてしまうから困るよ」
怒鳴りつけたい衝動を抑え込んで、冷静に淡々と述べた。ここは職場だ。感情的になっても仕方ない。
私が取り乱すことなく、冷静に言い放った態度が気に食わなかったのか、キっと鋭い視線を向けられる。
「なんで。そうなんですか?!」
「え、」
「なんでいっつも泉さんはそうなんですか? むかつくならそう言えばいいじゃん。なんでいつも優等生ぶっているの? なんで、泉さんなんですか? だって、泉さんより絶対私の方が可愛い! 年だって若いし、みんな私を選びますよ!」
秋月さんの怒りの矛先が、いつの間にか私から真白さんへと変わっていた。怒鳴り声に近いヒステリックな声が響き渡る。
「どうしても納得いかないんです! なんで真白さんが選んだ人が泉さんなんだろうって。特別美人でもかわいくもないくせに」
仕事の話はいつのまにかどこかへ消えていた。秋月さんは真白さんへの未練を怒りに任せて言葉に乗せる。
秋月さんは、私への嫌悪感を言葉に乗せる。
分かってはいたけど、悪意が込められた言葉はナイフに突き刺されたように痛い。凶器のような鋭い視線で睨まれて痛みがさらに加速する。
言い返そうと口を開きかけた時。
目を真っ赤にさせて唇を噛み締めている彼女の姿が目に入った。
秋月さんの悲痛の叫びに、言い返すことができなかった。今度の涙は本物だとわかったからだ。
真白さんと私は本当のところは、付き合っていない。嘘をついている罪悪感から、言い返す権利がないと思った。
私の代わりに言葉を発したのは真白さんだ。低い声が降り注ぐ。
「今回の件は、故意にやったって認めるってこと?」
「そうですよ? だって、泉さんと真白さんは釣り合わない! 自然と排除してあげようとしたんです!」
興奮した秋月さんは、自分の過ちを自白してくれた。さっきまで彼女の味方をしていた社員たちは気まずそうな表情を浮かべる。