致し方ないので、上司お持ち帰りしました




「久しぶり」

「……」

 嘘っぽい微笑みを浮かべて声をかけてきた。返事はせずにキッと睨みつけた。話したくもなかったからだ。



「ちょっと、話さない?」

「話なんてないよ。詐欺師と話すことなんてない」

「詐欺師?! 人聞きの悪いこと言わないでよ? 俺は彼氏でしょ?」

「何言ってんの? お金のために近づいてきたことくらいわかってるんだから!」


 頓珍漢なことを言うので、思わず声を荒げた。
 正気か? お金をせびる男を彼氏だと思うほど、私の頭はお花畑ではない。



 軽蔑する眼差しを向けても、動揺1つ見せずに口角を上げてニヤリと不気味に笑った。



「そんな大声出して大丈夫? ここ会社の前っしょ? 会社の前で男と言い合いしていたら、変な噂立てられるよ?」

「……」


 どこまで意地悪いのだろう。お金のためだったとはいえ、半年ほど男女の付き合いをしていた。私の周りを気にする私の性格を把握した上で言っている。


< 85 / 111 >

この作品をシェア

pagetop