致し方ないので、上司お持ち帰りしました




「50万! 現金即決で! 大丈夫。涼香のやつ金ため込んでいるからさ。あいつに払わせればみんなハッピーってやつだ」


 楓くんは、にやりと人の悪い笑みを浮かべて上機嫌に話し続けた。そんな彼に予想外な言葉が下りてくる。



「……慰謝料は到底払えませんね」

「はあ? お前、頷いたじゃねーかよ」

「払う必要のないものは払いません」



 優しげな声で話していた真白さんの声色が変わった。叩きつけるような口調で冷静に言い放つ。


「……うっせえな! 金よこせよ! その女。たんまり貯金してんだから」


 態度の変わった真白さんに、楓くんは掴み掛かるように怒鳴り散らした。胸ぐらを掴まれても、真白さんは決して冷めた態度を崩さない。しばらく無言の攻防が続く。



「はい。おっけーです」

「は? 何言ってんだ?」

「すべて録音していました。今の言葉で恐喝罪として立証されると思います」

「は? あれは、お前が金を払うって……」



 真白さんは意地悪な含み笑いを浮かべて、スマホを掲げた。そして、再生ボタンを押す。
 

『50万! 現金即決で! 大丈夫。涼香のやつ金ため込んでいるからさ。あいつに払わせればみんなハッピーてやつだ』
『うっせえな! 金よこせよ! たんまり貯金してんだから』



 再生されて聞こえてくる声は、楓くんの声ばかりだった。


 記憶をたどると、肝心なことの返事は真白さんは声を発さずに頷いていた。頷いて了承すると見せかけたのは、このためだったんだ。



 さっきまではへらりと笑っていた真白さん。今は微塵も笑みを浮かべずに、楓くんに詰め寄った。


 真白さん180センチの長身長。比べて楓くんは168センチと小柄だ。体格差に気迫負けしているのが見て取れた。
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