致し方ないので、上司お持ち帰りしました
「くっ」悔しそうに短い声を上げると、楓くんはその場から走って逃げた。
「あー。逃げても無駄だよー! 本名、飯田圭太さん!」
逃げていく彼の背中に、トドメを刺すように声を張って言い放つ。
楓くんは目を見開いて驚いたように、ぐるりと振り返った。私だって驚いていた。
「え、本名って?」
「心配だったから調べてもらったんだ。「花田楓」という名前は偽名で「飯田圭太」が本名。女性からお金をだまし取る結婚詐欺師だよ」
花田楓は偽名だったらしい。
衝撃的な事実に頭が追いつかない。
「本名と顔割れちゃっているから! 逃げられないよ! 泉さんに近づくことあったら……俺、次は犯罪を犯すかも! 復讐に来るならそのつもりで!」
語気を荒げて言い捨てた。真白さんの口から言い放たれた最後の言葉に背筋が凍った。それほど言葉から凄みが感じられた。
楓くんはごくんと生唾をのむと、何も言わずに再び走って逃げていった。