致し方ないので、上司お持ち帰りしました



その後も待ち伏せを続けている楓くんを現行犯で目撃したため、犯罪歴がないか警察官の立場から捜査していた。そこで、「花田楓」が偽名であり、本名「飯田圭太」と発覚したのだ。



 まさか、そんなに前から動いてくれていたなんて。そんな素振り微塵も見せなかったのに。



「本名と顔が割れているから、被害届を出せば逮捕できるよ。本当、泉さんが無事で良かったよ」

「真白さん、大変なご迷惑かけて……すみません」

「迷惑なんかじゃないよ。良かった。泉さんを守れて……」


 さっきまでの殺気が溢れた表情とは一変して、ふにゃりと優しい真白さんに戻っていた。


 安堵すると共に、頬に一筋の冷たい液が伝う。
 

「……あれ」


 頬を手でなぞると涙が流れていた。頬に感じた冷たい感触は涙だった。自分でもなぜ泣いているのかわからない。



 楓くんに会社で待ち伏せをされて怖かった。

 心ない言葉を浴びせられて心が痛かった。

 真白さんが走って駆け付けてくれたことが嬉しかった。

 避けられていた真白さんが今近くにいて、会話ができることが嬉しい。



 涙が流れる理由には、思い当たる節が多すぎた。
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