あの子、溺愛されてるらしい。
平穏な毎日を壊されたのはすごく腹が立つ。


でも上手く怒ることができなかった。



「私は…今回の件で本当に嫌な思いをしたんです。だから簡単には許したくありません…。」

「…許してくれなくていい。本当にごめんなさい。でも、栄斗は本当に関係ないんだ。そこは誤解しないであげてほしい。」

「…それはわかってます。」

「あんな噂流すなんてどうかしてた。栄斗がいつも噂のせいで苦しんでるのを見てたのに。それを梨央ちゃんにもやるなんて…ごめんなさい。」



そう言ってゆっくり立ち上がった佐野先輩はもう一度私に頭を下げた。



「本当にごめん。」

「…それはわかりました。」



ありがとうと小さく言って先輩は教室を出て行った。


佐野先輩も中條さんのためにやったことだとわかっている。やり方はよくなかったけれど佐野先輩がどれだけ彼を思ってるか少しわかった気がした。


その時、また教室のドアが開いた。



「…乃々佳。」

「ごめん。勝手に話聞いちゃった…。」



申し訳なさそうに入って来た乃々佳はそれから何も言わなかった。この話を聞いたら乃々佳は怒るだろうと思っていたけれど、冷静に私が何か言うのを待ってくれていた。


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