あの子、溺愛されてるらしい。
「…どうしてですか?」

「誤解される。噂は本当だって。今俺たちは恋人同士だって思われてる。」

「そうですけど…。」

「これ以上迷惑はかけられない。今だってクラスで変な目で見られてるだろ?そんな風に梨央に毎日を過ごしてほしくない。」



子供に優しく言い聞かせるように中條さんは私に言った。


でも…いつからか私は噂のことよりも彼が悪く言われることを嫌だと感じるようになっていた。


彼が本当は優しくていい人だと知ってしまったから。



「でもこのままじゃ中條さんが悪く言われます。噂ってすごく怖いんです。明日にはさっき言われたことが学校中に広まってるかもしれませんよ。」

「梨央のことじゃなければいい。俺は慣れてる。」



『慣れてる』。その言葉を聞いて胸が締め付けられた。私も中條さんのことをちゃんと知るまでは噂で聞いた話を信じて彼を怖がっていた。私も彼を『慣れた』と思ってしまうほど傷付けた1人であるかもしれない。



「慣れないで。」

「ん?」

「慣れないで。痛い時はちゃんと痛いって言ってください。」

「ふっ。誰に?」



彼は笑っていた。本当に自分は傷付いていないというように。痛みなんて感じていないように。


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