キミと過ごした、光輝く270日間のキセキ【2.19おまけ追加・完結】
俺も、なにもできない自分に憤りを感じている。
葵を救いたい気持ちは、みんな同じだ。

しばらく沈黙が続いたあと、森脇が絞り出したような声で話し始めた。


「五十嵐、先生っ……せめて。せめて、矢田ちゃんの夢を……叶えてください」

「夢?」

「矢田ちゃん……結婚式……。結婚式が、したいって」


泣きながら、葵の夢を話してくれた森脇。
思いもよらない葵の夢に、俺は動けなくなった。

――葵の、夢。
今までそんなこと、聞いたことはなかった。

でも、森脇には話したのか……。
そうだとすれば、叶わないと思って俺には言わなかったのだろう。


「五十嵐先生、お願い……」


まるで自分の願い事を叶えて欲しいかのように、泣きながらそう言う森脇。


「そうだな……」


もう、これ以上の治療はできない。

だったら、せめて葵の夢を叶えてやりたい。
葵が、後悔しないように。


「わかった。少し考える。森脇、教えてくれてありがとう」

「五十嵐先生……」

「落ち着いてから帰れよ」


葵の夢を教えてくれた森脇に感謝して、カンファレンスルームを出る。

……そうか。そうだったのか。
葵は、夢を持っていたんだ。

今その夢を叶えることができるのは、俺たちしかいない。
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