キミと過ごした、光輝く270日間のキセキ【2.19おまけ追加・完結】
いい加減な気持で、結婚指輪を買いに行ったわけじゃない。

この先も、俺の妻は葵しか考えられないんだ。
生きていても、そうでなくても。

俺の妻は〝矢田葵〟なんだ――。


「違うよ、葵」

「……なにが違うの…」

「俺はこの先、葵しか愛せない」


俺の言葉に、大きく首を横に振った葵。
彼女の前に(ひざまず)き、そっと手を握る。


「そんなはずない……! 匠真には、もっと素敵な人が現れる。未来があるんだよ」


〝未来がある〟
その言葉を聞いたとき、葵は『もう長くない』とわかっているのだと悟った。

自分には未来がない。
でも、俺には未来がある。だから、結婚できない。

そう言いたいのだろう。

でも、俺の気持ちは揺らがない。
一生懸命癌と戦っていた葵は、俺にとっての最愛の人なんだ。

それは、一生変わることはない。


「葵。もちろん俺には未来がある。でも、それは葵が俺の妻になってからの話だ」

「どういうこと……」

「愛する葵が妻になってからこそ、俺の未来が切り開かれるんだよ」


俺の言葉の意味を理解した葵は、静かに涙をこぼす。

参列席で見守っていた葵のお母さんも、彼女のそばへと駆け寄り、背中を擦っている。


「葵、結婚しよう」


精一杯、俺の気持ちを葵に伝える。
今度こそ伝わって欲しいと、そう願いながら。
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