キミと過ごした、光輝く270日間のキセキ【2.19おまけ追加・完結】
状況を理解した大貫も、涙を流しながらその場を離れる。

泣くな、泣くな大貫。
そんなことを思いつつ、俺はゆっくりと葵に近付いた。

ちょうどそのとき葵の両親も病室に到着したようで、息を切らしながら葵のベッドサイドに駆け寄る。


「……葵、聞こえるか?」


俺の声に反応した葵はゆっくりと目を開け、顔をこちらに向けた。


「たく、ま……来て、くれたの……?」

「あぁ。診察の時間だ」


きっとこれが、最後の診察。


「なんか、朝……頭がね…ボーっとして……」


一生懸命状況を説明しようとしてくれる葵の手を、ぎゅっと握った。

まだ……まだ、暖かいじゃないか。
それなのに……。


「そうか。葵、よく頑張ったな。もう、大丈夫だ」


震える声で、なんとか葵に話しかける。

まだ人間としてのぬくもりは残っている。
それなのに、なんでこんなことを言わなければならないんだ……。


「葵……葵、愛してる。これからも、俺の妻は葵だけだ」


掠れた声でそう言うと、葵は微かに笑みを浮かべた。

そして俺だけに聞こえるようなか細い声で、こう言った。



「幸せになってね、匠真」



それが、葵と交わした最後の会話だった。
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