キミと過ごした、光輝く270日間のキセキ【2.19おまけ追加・完結】
『話しかけるんじゃない』というような空気を漂わせながら、院内を歩いているクセに。

なんて、思っていても言えないけど。


……コンコン

と、軽快に病室の扉を叩く音が聞こえた。
扉の向こう側から顔を出したのは、担当ナースの大貫さん。


「矢田ちゃん。お迎え、来たみたいよ」

「あ、はい! ありがとうございます」


立ち上がって、ベッドの下に準備してあった荷物を手にする。
それなのに、その荷物はすぐに五十嵐先生に取られてしまった。


「俺が持つ」

「え! いいですよ。両親も来てますから!」


慌てて荷物を返してもらおうとしたけれど、さっさと病室を出てナースステーションへと向かって行く五十嵐先生。

仕方なく大貫さんと病室を出ると、2人でナースステーションへと歩いた。
病室を出てしばらく歩くと、すぐに両親の姿が目に入る。


「葵、お帰り」

「お父さん……」


入院中は仕事の都合で面会時間が確保できず、1度も病院に来ることができなかった父。

家では「葵はどうしてる?」と、母に毎日聞いていたみたいで、私の退院日を知って大喜びだったんだとか。
『この話、お父さんには内緒よ』と、母から言われている。

でも、私のことを待っている人がいてくれることは本当に嬉しい。
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