キミと過ごした、光輝く270日間のキセキ【2.19おまけ追加・完結】

家庭の味と、葵の想い

2週間ぶりの実家。
当然だけど、なにも変わってはいない。

でも、静かな病室に1人でいるより、よっぽどいい。


病院にいる間は、自分の余命ばかり考えていた。

どれだけ考えても、寿命は延びるわけないのにーー。



「お母さん、ニット帽ありがとうね」


テーブルの上に、ニット帽を置いた。

髪の毛は、もちろんない。
それでも、家にいるときは本来の自分で過ごしたいから。

ここにいれば、髪の毛のことを言ってくる人もいないもの。
だから大丈夫。


「寒くない?」

「うん、平気。部屋、あったかいもん」

「そう……。今日は、葵の食べたい夕食にしようと思うの」


キッチンでお茶を淹れながら、母がそう言う。

食べたい物、か。
正直なところ、今は特になにもない。

入院中も毎日違う献立で、身体にいい食事ばかりを提供してくれていたけれど毎食4割程しか食べれなかった。

申し訳ないと思いつつも、身体が食べ物をあまり受け付けなかったから。


「葵?」

「あ、うん。なんか……温かいうどんとかでいいかな」

「わかったわ。鍋焼きにしようかしら」


私のリクエストを聞くと、母は冷蔵庫を物色し始める。

食欲は、まだ戻っていない。
多分、うどんですらも完食はできないと思う。

まだこんな調子なのに、土曜日の約束……どうしよう。
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