キミと過ごした、光輝く270日間のキセキ【2.19おまけ追加・完結】
診察や手術があるにも関わらず、たった数時間のためだけに駆けつけてくれた彼の優しさには心温まる思いだった。

病気が治ったら、彼に恩返しをしなければ。


「あら? 五十嵐先生。まだいるならついでに逆血(ぎゃっけつ)の確認お願いしますよ」

「あぁ。そのつもりだ」


石橋さんが戻ってくると同時に、冷ややかな表情に戻った五十嵐先生。
そのままの表情で、私の左腕の逆血確認をしてくれた。

点滴の漏れもなく、ちゃんと血液が逆流していることを確認した彼は私の顔を見ることもなく「じゃあ、あとはよろしく」と言って化学療法室を出て行った。


……なによ。
さっきまで優しい顔をして、私のことを見ていたクセに。

急に冷たくなるなんて、少し寂しい。


不貞腐れたまま窓の外を見ていると、事務服のスカートのポケットでスマホが震えていることに気が付いた。

画面を確認すると、1通のメッセージ。


『危ない。キスしそうになった』


メッセージの送り主は五十嵐先生。
意外な内容に心臓が飛び跳ねて、再び身体が熱くなった。

……キス?
それはさっき、私を食事に誘ったときかな。

確かに顔は近かった。でも、まさかそんなことを考えていたなんて。

メッセージの内容に頬が緩んで、さっきまでの寂しい気持ちも吹き飛んだ。
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