キミと過ごした、光輝く270日間のキセキ【2.19おまけ追加・完結】
退院後すぐ私が体調を崩してしまってから、ずっと延期になっていた。

5月は自宅に缶詰状態だったから、ちょっとした外出でも嬉しく思える。
なんなら、ファストフードでもいいくらいだ。


「和食、好きなのか?」

「いえ。最近は、脂っこい物を避けるようにしてて」


あれ? だったら、ファストフードは無理か。


「そうか。まぁ、食べたい物食べればいいと思うけど」

「五十嵐先生は、洋食派ですか?」

「うーん。どっちも好き。それよりさ……」


赤信号で停車したと同時くらいに、私の方を見つめてグッと近付いた五十嵐先生。
急な出来事に、心臓が飛び出そうになる。

えっ、まさか……キスされるの?
ここで?


「その〝五十嵐先生〟っていうの、そろそろなしにして」

「……はぃ?」


言いたいことだけ言って、すぐ前を向いた彼。
信号が青に変わり、ゆっくりと進み始める車。

ドキドキが治まらないまま、彼が口にしたことを脳内で反芻する。


〝五十嵐先生っていうの、そろそろなし〟


ということは。
私に、下の名前で呼んで欲しいということだよね?

そんな、急に?


「付き合ってるんだから〝匠真〟でいいよ」

「えぇ……」


これはさすがに、ハードルが高すぎる要求だ。

今までドクターを下の名前で呼ぶなんてことはなかったから、正直困惑しかない。
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