キミと過ごした、光輝く270日間のキセキ【2.19おまけ追加・完結】
そう言って、お箸で器用にアジフライを切り分けている彼。

でも、なにかを思い出したかのようにその手を止めた。


「まだ、脂っこい物は無理か?」

「はい……ごめんなさい」

「謝ることはない。体調優先だろ?」


切り分けたアジフライをそのまま口に運んだ五十嵐先生は、美味しそうにアジフライを咀嚼(そしゃく)している。

別に食べても問題はないと思う。
でも、今は控えているだけ。

好きな人の厚意も素直に受け取れないことは、こんなにももどかしいんだ。


「葵? 体調悪いのか?」

「えっ、違います。大丈夫。ただ……」

「ただ?」

「好きな人の厚意を受け取ることもできないのって、辛いなぁ……って」


自分の気持ちを素直に伝えると、五十嵐先生は「なんだ、そんなことか」と言って再びアジフライに手を伸ばす。

そんなこと?
彼にとっては、それで済まされることなの?

せっかくの想いを相手が素直に受け取ってくれないって、辛くないのかな?


「葵、気にしなくていい。ゆっくり、葵のペースでいいんだ」


ーーその言葉が、今の私にとってどれだけ嬉しかったか。

少しでも早く、いつもの生活に戻りたくて。
少しでも、周りから普通のカップルに見られたくて。

焦っていたかもしれない。
私は、私のペースでよかったんだ。
< 85 / 189 >

この作品をシェア

pagetop