愛しのプラトニック・オレンジ~エリート消防官の彼と溺甘同居中~
プロローグ
私、乙花真誉は、どちらかというと慎重な性格だと思う。
これまでの人生で、大きな失敗という失敗は経験してこなかった。
だからこそ、まさかこんな些細なミスが、致命的な大失態に繋がるとは思ってもみなかったんだ。
自宅の一階、風呂場の隣にある脱衣所にて。
濡れた素肌にバスタオルを巻いて、髪から雫を滴らせながら、私は呆然と棚の上を見つめていた。
置いてあるはずの着替えがない。
というか、持ってきていないのだからあるはずがない。
問題は、どうして着替えを持たずにお風呂に入ってしまったのか、ということだ。
「……忘れるにもほどがあるでしょう、過去の私……」
三十分前の自分に向かって詰問する。私はいったいなにをしていた?
「確か、彼とチャットメッセージを交わしていて……」
ジムで汗を流していた彼から【もうすぐ帰る】という連絡が来た。
それに対し、【了解です】とパンダのスタンプを押して返信。
携帯端末を操作しながら、ふらふらと一階の廊下を歩いていたのを覚えている。