愛しのプラトニック・オレンジ~エリート消防官の彼と溺甘同居中~
ちらりと彼を見つめて、きゅっと唇を引き結ぶ。

それでいいのだ。どんなに彼が素敵でも、格好よくても、好きだったとしても、彼とは恋愛できない理由がある。

「よーく、かんで食べてね」

朝から食欲旺盛な彼を笑顔で見守って、目の前にある儚くて穏やかな幸せをかみしめた。




三十分後。身支度を整えた彼が部屋から出てきた。

筋肉質な肉体を上質なブラックスーツにくるみ、バーガンディの上品なネクタイを締めている。

髪は軽く整えられ、表情はキリッと引き締まり、朝とは別人のように凛々しく雄々しい。

こうしてみると、デキるサラリーマンにしか見えないのだが、彼の職業はちょっぴり特殊だ。

「いってきます」

「いってらっしゃい。気をつけてね」

頼もしい笑みを浮かべて、玄関を出ていく。

今はスーツを着ているけれど、仕事場に着いたらオレンジ色の救助服に身を包み、人々を守るため、身を粉にして働く。

私はリビングの隣にある畳敷きの居間に向かい、仏壇の前に膝をついて手を合わせた。

「お兄ちゃん。今日も北斗さんを守ってあげてね」

仏壇にはふたり分の遺影。

ひとりは母。もうひとりは、オレンジ色の救助服を着て、腕を組んで仁王立ちする兄――乙花遊真(ゆうま)

< 11 / 155 >

この作品をシェア

pagetop