愛しのプラトニック・オレンジ~エリート消防官の彼と溺甘同居中~
「だから、本当に今の関係を壊して前に進みたいって思うなら、あんたから一歩を踏み出さなきゃ」

「う、うん……」

とはいえ、昨夜、その一歩を踏み出そうとして拒まれてしまったとは言えない。

気まずくなり、無理やり話題を逸らした。

「とにかく、ほら、新作の反省会やるんだよね? このあと在庫の確認もしなくちゃだから、時間がなくなっちゃうよ」

優多さんは「ええ、そうね」と眼鏡をかけてノートパソコンを起動した。

「新作自体は好評だったけど、問題はコスト面よね。手が込んでる分、どうしても跳ね上がっちゃうから」

「特別感が伝われば、値段に納得してもらえると思うんだよね。キャッチコピーやメニューの書き方を変えてみる?」

「もしくは、見た目をもっと華やかにしてみようか? ローカロリーローコストの食材をもう少し盛れない?」

彼女とやり取りしながら、頭の片隅で彼を思う。

昨夜の濁すような態度は、彼の優しさだ。私が傷つかないように精一杯言葉を選んでくれたのだろう。

本当は単純に、私を女性として見られないだけかもしれない。

この気持ちはもう一度、見ない振りをして閉じ込めた方がいいのかも。

もやもやとした思いを抱えながら、ごまかすように仕事に集中した。



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