愛しのプラトニック・オレンジ~エリート消防官の彼と溺甘同居中~
「って、そのままお風呂に来て、入っちゃったのね……」

とんだおとぼけミスをしてしまった。バスタオルが脱衣所に置いてあったのが不幸中の幸いだ。

「どうしよう」

バスタオルを巻いたまま、二階にある自室まで取りに行けば済む話ではある。

ひとり暮らしならばタオル一枚でも躊躇なく廊下を歩くだろう。

とはいえ、家に彼がいる以上、そうはいかない。

「もう帰ってきてるかな?」

脱衣所のドアを少しだけ開けて、ちらりと外をうかがう。リビングは暗いまま、ひと気はない。

「まだ帰ってきていないのかも?」

これはチャンスだ。彼が戻ってくる前に自室に辿り着けばいいのだ。

私、乙花真誉は慎重な性格ではあるけれど、ときには大胆な挑戦も必要だと思っている。

「よしっ」

意を決して脱衣所を出た私は、巻き付けたタオルを胸もとでしっかりと押さえながら、急いで、でも転ばないように階段へ向かった。

音を立てないように抜き足差し足するのは、無意識にやましさを感じているからかもしれない。

そうっと階段を上がる。残り三段、自室は廊下のすぐ左。

彼に見つからずに済んだ、そう安堵しかけたとき――。

「真誉?」

廊下の反対側から背の高い男性が現れたものだから、私は驚いて「ひゃああっ!」と悲鳴をあげた。

慌ててうしろに飛びのく。しかし、背後は階段で――。

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