愛しのプラトニック・オレンジ~エリート消防官の彼と溺甘同居中~
女性が茶目っけたっぷりにぱちりとウインクする。

私は「ごゆっくりお召し上がりください」とにっこり微笑み返して席をあとにした。

満足してもらえるといいな。

そんなうきうきした気持ちで、新しく来店したお客様のご案内をしていると。

……なんだか焦げ臭い?

なんとなく嫌な匂いを感じた気がして、ちらりとキッチンを覗き込んだ。

とくになにかを焦がしたりはしていないようだけれど……?

すると、お会計を済ませて内階段から降りていったはずのお客様が、血相を変えて戻ってきた。

「あのっ、なんか下の階から煙が上がってきていて!」

「え……?」

そのときだ。ジリリリリと火災報知器が大きな音を立てて鳴り出した。

事務室で作業をしていた優多さんが飛び出してくる。

火事だ――ふたり、目線を交わして頷き合う。火災が起きた場合の対処は、シミュレーション済みだ。

優多さんがすぐさま客席に向かい声をかける。

「みなさま。こちらに非常階段がございますので、慌てず、ゆっくりと、おひとりずつ外に避難してください」

客席とは反対側の、倉庫として使っている部屋の奥に非常階段へ続くドアがある。
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