愛しのプラトニック・オレンジ~エリート消防官の彼と溺甘同居中~
第五章 全力で守ると誓った日
……酷いことをしてしまったな。

罪悪感に駆られながら、隣を歩く真誉を覗き見る。

真誉は俺に家族以上の好意を持っている。思い詰めた表情でなにを訴えようとしていたのか、察しはつく。

だが、その言葉が発せられる前に遮った。

『俺じゃ、真誉を幸せにしてあげられない』――曖昧な言葉でごまかそうとした。

結果、余計に傷つけてしまったかもしれない。

いっそ二度と俺に興味など持たないように、冷ややかな態度を取るべきだっただろうか。

それができれば話が早かったんだが。ふう、とこっそり息をつく。

『愛せない』『興味がない』『女性として見られない』――そんな心にもないことをなぜ言えようか。

一緒に暮らし始めた当初は、純粋に家族として見ていたはずだ。

いつからこんなにもややこしい感情を抱くようになったのか。自分でもよくわからない。

……俺はただの臆病者なのかもしれないな。

業火の中、要救助者を助けに行く勇気はあっても、愛する女性に嫌われる覚悟がないのだから。

彼女を傷つけたくない、悲しむ顔を見たくない――そう思う裏側には、自分が傷つきたくないというエゴがある。

彼女の幸せより、自分の感情を優先するなど、最低だ。


< 76 / 155 >

この作品をシェア

pagetop