敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
『違います。私はただ、木下さんが好きだから家事も』

『そう。俺のことが好きだから家事をしてくれていたんだよな? それなのにいちいち弁当の味を聞いてきたり、これをやっといたとか報告してきたり、好きでしていたくせにこちらに見返り求めるような感じが正直、うざかったんだ。そこまで誰も頼んでないって』

 面倒くさそうに言い放った木下さんに対し、橋本さんが笑いだす。

 この感覚には覚えがあった。

『どうしてこんな余計なことをしたの! お母さん、頼んでないわよ』

 母の言葉が頭を過ぎり、体が震える。

 私が悪かったの? 私が……。

『家事してくれて、なんでも言うことを聞いてくれるから付き合ったけど、未希ってそれだけだよな』

『自分から家政婦になっちゃうなんて……。恋人ならもっと頑張らないと。沢渡さんも気づきなさいよ。家事なんて誰でもできるのに』

 木下さんと橋本さんの言葉に、私はそれ以上なにも言えず、その場から逃げ出した。

 そんな終わりを迎え、振られたショックは元より自分のしてきた行動すべてに嫌悪し後悔した。

 誰かのためになにかをしたい気持ちは、自己満足なのか。喜んでもらいたかった。まったく見返りを求めていなかったといったら嘘じゃない。そう思うと怖くて身動きがとれなくなった。

 とはいえ同じ部署で、嫌でも橋本さんや木下さんと顔を合わせなくてはならない。仕事に打ち込んで平気なふりをしながら、日々神経をすり減らしていた。

 木下さんや橋本さんを見るたび に、惨めな思いがあふれ自分を嫌いになっていく。
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