敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている～契約結婚なのに心ごと奪われました～

「振られた相手と気まずいから仕事を変えようだなんて甘えているのはわかっています。でも私」

　隼人さんから厳しい言葉が飛んでくるのを予想し、言い訳めいた口調で捲し立てる。けれど途中で彼に抱き寄せられ、頭が真っ白になった。

「未希はなにも悪くないし自分を責める必要はない。相手が馬鹿なだけだ」

　真剣な声色が耳に届き、目の奥が熱くなる。

　どうしよう。泣きそう。

「だ、大丈夫ですよ。そんな慰めてくださらなくても」

　震える声でそう返すのが精いっぱいだ。隼人さんをこれ以上煩わせるわけにはいかない。

　私はそっと彼から離れた。

「なぜ？」

　ところが、逆に隼人さんから尋ねられ答えに窮する。

「なぜって……だって私は……」

　彼に雇われている身で、家では家事をこなすのが役目だ。自分の仕事をして、彼の役に立たないと。

　説明しようとしたら両頬に手を添えられ、上を向かされる。

「妻がそんな顔をしているのに平気でいられるわけないだろ」

　切なそうな面持ちの隼人さんに、息を呑む。

「見返りとかそういう問題じゃない。気持ちをないがしろにされたら、誰だって傷つく。だから未希がつらいのは当然なんだ。無理をするな」

　彼の言葉が心に沁みて、目を必死に見開く。瞬きをしたら涙がこぼれそうだ。そう思った瞬間、あっという間に視界がぼやけ、堪えていた涙が頬を伝った。

　隼人さんから顔を背けたいのにそれが叶わない。むしろ彼の手を濡らしてしまっている。