敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 唇が離れ、ゆるやかに目を開けると心配そうにこちらを見ている隼人さんと目が合う。言い知れない羞恥心があふれ出し、とっさに視線を逸らした。

 こういうとき、どういう顔をしたらいいのかわからない。なんて言えばいいのかも。戸惑っていると隼人さんにぎゅっと抱きしめられる。

「未希」

 低く耳触りのいい彼の声に、胸が高鳴る。ちらりと彼をうかがうと、再び唇を重ねられた。目を閉じる暇もなく、驚いている間に角度を変え何度も口づけられる。柔らかい唇の感触が心地よくて次第に熱を伴っていく。

 優しいキスにこのまま身を委ねたい。一方で、漠然とした不安が胸の中で小さく渦を巻き出した。

 そのとき、お風呂の準備できたと知らせる機械音がリビングに響いた。不意打ちに隼人さんも口づけを中断させ、私も我に返る。

「あの、お風呂できたみたいなので、隼人さんどうぞ。タオルも用意していますので」

 抱きしめられている体勢ではあるが、極力平静といつも通りを装い、彼に声をかける。

「未希が先に入ってきたらいい。疲れているだろう」

「だ、ダメですよ。隼人さんを差し置いてそんな真似できません。私は雇われている身ですよ」

 真っ向から彼の発言を却下する。すると隼人さんは目を見張ったあと、苦笑した。

「急に仕事モードになるんだな」

「そ、それは……」

 情緒もなにもあったものじゃないが、私が彼に雇われている事実は変わらない。変えられない。

「なら、一緒に入るか?」

 自分に言い聞かせていると、隼人さんがさらりと提案してきた。
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