敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 見惚れてしまいそうになり、視線を逸らす。意識してはいけないと思えば思うほど、胸が苦しくなる一方だ。パーティーのあった日の夜、キスしてしまってから余計に。

 結婚とはいえ所詮は書類上だけだ。隼人さんはどこまでも変わらないのに。

 遊園地の駐車場に無事に着き、降りるよう促される。

 夫婦とはいえ自分の立場を忘れてはいけない。己を奮い立たせ隼人さんに続いた。今日は少しだけ曇っている。まだ午前中だからかもしれないが、もう少し太陽と共に気温が上がると嬉しい。

「行こうか」

「はい」

 空から隼人さんに意識を向ける。チケットを先に持っていたので、あっさり入場できた。やはり週末なのもあって家族連れやカップル、友人同士のちょっとした集団など多くの人で賑わっている。私はきょろきょろと辺りを見回し、スマホの画面を見つめる。

「どうした?」

「あ、もうすぐ中央の噴水が舞い上がって、からくり時計とのコラボが見えますよ!」

 得意げに話す私に、隼人さんは目を丸くした。

「詳しいな。何度か来たことがあるのか?」

「いいえ、初めてです」

 さらりと答え、続けようとした言葉を口にするかどうか一瞬、迷う。なんとなく言いづらかった。

「その、遊園地自体が……初めてなんです」

 しかし、私は正直に答えた。こう告げるとたいてい驚かれるのだが、隼人さんの場合は事情まで悟られてしまいそうだから。

 案の定、隼人さんは複雑そうな面持ちになっている。
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