敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「それにしても、シャッツィのおもちゃを贈るとは、社員の鏡だな」

「え?」

 そう告げる隼人さんの表情や口調はどこか冷めている。彼は前髪をくしゃりと掻き、自嘲的な笑みをこぼした。

「社長としてありがたいよ。さっきの限定エリアの様子を見ても思った。シャッツィの商品自体を知らなくても、長年培ったブランド力や知名度で集客は十分にできている。ただ、それは俺ではなく前社長の力で――」

「そんなことありませんよ」

 心臓がバクバクと音を立てる中、私は隼人さんの言葉を否定する。隼人さんが今、どういう気持ちでいるのかはわからない。でもなんとなくつらそうなのが伝わってくるきて、私は必死に言葉を紡ぐ。

「隼人さん、まずは私があのベビーカートイを選んだのは、シャッツィの社員だからではありません。他社の商品と比べてシャッツィのものが一番いいものだと思ったから贈ったんです。シャッツィのおもちゃはどんな人にも自信をもって勧められますし、贈りたくなりますから」

 正直、他社製品との比較を普段から仕事でよくしている。好みや重要視する観点は人それぞれでも、私はやっぱりシャッツィのおもちゃが一番好きだ。

「あと、ブランドに対する信頼や知名度はすぐには築けないかもしれませんが、その名に相応しい商品にしているのは現社長である隼人さんの力ですよ。いいじゃないですか、シャッツィの名前だけで商品を手に取ってもらっても。そこから長く、より多くの人に使ってもらうのは中身が伴わないとならないんですから」

 伝統やブランド名を重要視するのは消費者としては当然だ。けれどその分、期待値も上がる。使ってみたときに感じる落差は激しい。
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