敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「そ、それにしても大人に比べて子どもの成長ってやっぱり早いんですね。最後に会ったときは本当に小さい赤ちゃんだったのにびっくりしちゃいました」

 しらじらしく話題を変える。たった半年であんなしっかりするなんて驚きだ。

「未希は子どもが欲しいとは思わないのか?」

「あはは。無理ですよ、育て方がわかりませんから……愛し方も」

 子ども自体は好きだし、可愛いと思う。けれど自分の子どもは想像できない。母に愛された記憶もない。父親も知らない。そんな自分が母親になるなんて無理だ。

 ぎゅっと唇を噛みしめ、逆に隼人さんに尋ねる。

「隼人さんこそいいんですか? 私と結婚したままだと――」

「隼人?」

 男性の声で隼人さんの名が呼ばれる。そちらを向くと、男性のそばには女性がいて表情では彼女の方が驚いているように見えた。

 ふたりとも隼人さんの知り合いなのかと隣にいる隼人さんをうかがう。しかし隼人さんは無表情で口を開いた。

「徳永」

「よく会うな。って前は仕事がらみだったけれど」

 男性が笑顔でこちらに近づいてくる。茶色い髪にゆるくウェーブをかけ、朗らかな雰囲気だ。笑うと八重歯がのぞき、少しだけ幼く見える。

「驚いた、こんなところで会うなんて。でもそうか、たしかシャッツィが絡んだ催しを今、しているんだよな」

 納得した面持ちになる男性の視線は私に向けられた。

「彼女は仕事の関係者?」

「妻だ」

 男性の問いかけに対し、隼人さんは即座に答える。
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