敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 待って、どういうこと? 割り切ったものだとしても、隼人さんは水戸さんと結婚を考えていたんだよね? 隼人さんのおかげって……。

「俺はなにもしていない」

「そう言うなって。いろいろ相談に乗ってくれただろ」

 冷たく返す隼人さんの顔がまともに見られない。

「お前が勝手にしゃべっていただけの間違いじゃないか?」

 隼人さんがため息をついたのがわかった。

「悪いな、長々と引き留めて。また連絡するから今度ゆっくり話そう。未希さんとの話も聞きたいし」

 そう言って隼人さんの肩を徳永さんは軽く叩く。私はどう反応すればいいのか。困っているとさりげなく隼人さんに肩を抱かれる。

「行こう」

「あ、はい」

 私は徳永さんと水戸さんに頭を下げる。彼らに背を向け歩きながら私の心は乱れっぱなしだった。

 もしかして隼人さん、徳永さんに遠慮して身を引いたのかな?

『いろいろあってね。俺からこの関係は続けられないと判断したんだ』

 隼人さんから婚約解消を言い出さなかったら、ふたりの関係は続いていて今頃結婚していたかもしれない。

 でも、だったらどうして水戸さんは隼人さんに気まずそうにしていたの? 隼人さんが結婚したと聞いたとき安堵していたようにも見えた。

 ふと別の考えが浮かぶ。徳永さんだけではなく水戸さんも徳永さんに惹かれていたのでは? それに気づいた隼人さんが彼女の気持ちを大切にして、自分から関係の解消を申し出たとか。

 それとも水戸さんにとって同じ割り切った結婚をするのに、隼人さんよりも徳永さんの方がいいと思う気持ちに隼人さんが気づいたとか?

 どっちみち、隼人さんが心から水戸さんとの関係の解消を望んでいたわけではないのかもしれない。
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