敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「未希」

「あ、はい」

 名前を呼ばれたのと同時に、肩に回されていた手の力が緩められる。

「驚かせたな。徳永も悪い奴じゃないんだ」

「い、いいえ」

 隼人さんが私に結婚を申し出た背景まで私、知る必要はない。彼の想いを突きつめる権利も。ただ彼の求める妻の役割を果たすだけだ。

「他に寄りたいところや乗りたいものは?」

「もう十分楽しみました。隼人さん、ありがとうございます」

 少し早いが、そろそろ帰ろうかと出入口に足が向く。そのとき隼人さんに手を取られた。

「このあと未希と行きたいところがあるんだが、かまわないか?」

 質問よりも彼の行動に驚き、ドキドキしながら首を縦に振った。

「デートなんだから手くらい繋いでおけばよったな」

「え、いえ。あの……」

 私のうろたえっぷりに隼人さんが苦笑する。これは隼人さんなりの私と夫婦になったことへの歩み寄りなのかもしれない。でも……。

「そんな形にこだわらなくても、私にとっては十分デートでしたよ」

 ふたりで出かけて、私の希望を優先してくれた。隼人さんと初めての遊園地に来られて嬉しかった。

 手を離そうとしたら逆に強く握られる。

「形にこだわったわけじゃなくて、俺が未希とこうしたかったんだ」

 言うや否や前を向いて隼人さんは私の手を繫いだまま歩きだす。おかげで彼の表情はよく見えなかったが、間違いなく今の私の顔は真っ赤にちがいなかった。
< 121 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop