敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 キスを交わしながら力強く抱きしめられ、そのままうしろに倒される。

 ソファの軋む音が耳につくが気にする余裕もない。

 隼人さんの背中に腕を回し、受け入れる姿勢を見せる。

「ふっ……んん」

 キスはすぐに深いものになって、唾液が混ざり合う音が響く。彼の歯列に舌を添わされ勝手に体が震えた。

 映画はどんどん話が進んでいっているが、音も映像もどこか遠くのことのようだ。

 さりげなく隼人さんの手が服の上から肌を撫でていく。この先の展開が、求められるものがなんなのかわからないほど子どもじゃない。

 先ほどの彼の言葉を思い出す。

 私、隼人さんの妻としてちゃんとやれているのかな? 隣にいても――。

「未希」

 わずかに息を切らして頬に触れながら呼びかけられる。その声も口調も余裕がなくて、こんな隼人さんの顔を見るのは初めてだ。

 このまま彼に溺れたい。隼人さんが私を選んでくれるなら。

『今みたいに仕事と捉えて、俺の妻になってほしいんだ』

『家事してくれて、なんでも言うことを聞いてくれるから付き合ったけど、未希ってそれだけだよな』

 そこで隼人さんや木下さんに言われた過去の発言が頭を過ぎる。おかげで自分の中にこもっていた熱がさっと冷めた。

 目を見張り、体を硬直させていると私の異変に気づいたのか、隼人さんが手を止め私をうかがってくる。

「あ、あの……」

 やめてほしいわけでも、心配をかけさせたいわけでもない。でも、隼人さんの目を真っすぐに見られず、視線を逸らしてしまう。
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