敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「じゃぁ、なんだよ?」

 ところが木下さんはさらに吐き捨てるように問いかけてくる。

「お前の魅力はなにがあるんだよ?」

 彼の質問の意図が読めずに、さらに不快感で顔を歪めた。けれど木下さんはかまわずに続けていく。

「ああいう人は、結婚でさえ自分のメリットを考えてするんだよ。Mitoの社長令嬢とも会っていたんだろ? シングルマザーで育って契約社員。おまけに女としての魅力も積極性もないお前を選んで、社長はなにを得るんだ?」

 真面目に聞いてはだめだと思うのに、木下さんの言葉が胸に刺さる。

 隼人さんが私を結婚相手に選んだのは、家事をしてくれるのと美奈子さんの誤解があったからだ。仕事だと割り切れるからで、それ以上のものを求められてもいなければ、彼のためになにかをできるとも思わない。

 甘い雰囲気になっても、それを私が壊してしまった。

 動揺しそうになりながら必死で平静を装う。とはいえ黙ったままではいられない

「隼人さんを侮辱する真似はやめてください。木下さんには関係ないでしょ? それにメリットを考えて私と付き合ったのは木下さんじゃないですか。私のことが好きだったわけじゃなくて、単に家事をしてくれる人がよかったんでしょ?」

 もうこれ以上は聞いていられないと私は立ち上がる。さっさと去ろうとしたら、木下さんに右腕を掴まれた。

「どうせ振られて泣きを見る。俺にしておけよ」

「なに言って……。橋本さんがいるじゃないですか」

 現にパーティーでも木下さんは橋本さんと一緒にいた。しかし木下さんは鬱陶しそうに眉をひそめる。

「今、揉めているんだよ。たぶん別れる。地方へ異動するくらいなら仕事を辞めて結婚したいとか言い出して……」

 彼の言い方には橋本さんに対する心配や愛情がまったく感じられない。他人事ながら腹が立つほどにだ。
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