敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 母が帰ってくるまでに元気になっておかないと。家事もしておかなきゃ。

 必死に言い聞かせ目をつむる。四日間の出張だと聞いている。けれど私の体調はまったくよくならず、悪化する一方だった。

 二日経っても頭が割れるように痛くて熱も下がる気配がない。本当に死んでしまうかと思い悩んだ末に、私は泣きながら初めて伯母に連絡をした。

 母と伯母は仲が悪く、連絡を取り合ったり交流していたりする気配はなかったが、それでも学校に提出する緊急連絡先の候補に、伯母の連絡先が記してあったのだ。

 子ども心に、母には電話できないと思い、そういった事情も含めほぼ初対面の伯母に話すと、彼女はすぐにやって来てくれて私を病院まで連れて行ってくれた。

 結果、風邪ではなくインフルエンザで重篤になりかけていた私は点滴などの処置をしてもらいなんとか回復した。

 伯母は激怒して母に連絡を取ったが、母は出張を切り上げることなく帰ってきた。

『インフルエンザだったんですって? 移さないでよ』

 開口一番に放たれた言葉に、さすがにショックを受ける。そこから伯母とはたびたび連絡を取り、母が忙しいときには彼女の家に行かせてもらったりするなどして交流が始まった。

 そういう意味で、あのとき体調を崩したのはけっして無駄ではなかったと思う。けれど体調を崩したときの母の迷惑そうな顔が忘れられない。

 苦しくて時間の感覚が不明瞭だが、ひんやりとした感覚が気持ちよくて私は重い瞼をゆっくりと開けた。
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