敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「お礼を言うのは俺の方だよ」

「え?」

 聞き返そうとしたら先に食べ終わっていた隼人さんが立ち上がる。

「食べたら念のため薬を飲んで、今日は安静にしておけ」

「あ、はい」

 話題を変えられた気もしたが、素直に頷いた。

 熱が下がったとはいえまだ気だるさは残っているので、食事を終えたあと、私はおとなしくベッドに戻る。もう少し眠ったらきっと元気になるだろう。

 せめて隼人さんが出社するときは見送るようにしないと。

 それから、どれくらい経ったのか。ウトウトしているとスマホの着信音で目を覚ました。会社からだろうかと急いで画面を確認したら、そこには意外な文字が表示されている。

【お母さん】

 母が私に連絡を寄越すことはめったにない。何事だろうかと緊張しながら通話ボタンを押した。

『あ、出た。仕事中じゃないの?』

 電話をかけておいてその言い草はないのでは、と思いながらいちいち指摘もしない。

「今は大丈夫。どうしたの?」

『突然だけれど、今日の仕事帰りにでも時間取れない?』

 挨拶や近況などはまったくなく、用件から述べるのは母らしいが、今回はその意図が読めない。

「なにかあったの?」

 わずかに声が硬くなる。しかし母はいつもの調子だ。

『話したいことがあってね。あなたの会社近くのファミレスに行くから』

「ま、待って」

 今日は体調を崩して会社を休んでいる旨を告げようとしたが、すんでのところで止めた。そんな話をしたら、また責められる気がしたからだ。
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