敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「無理するな」

 ところが彼に制され、つい唇を尖らせる。

「してません。私が隼人さんをちゃんとお見送りしたいんです」

 発言してから我に返る。こういうところがだめなんだ。

「あ……あの、迷惑でしたら」

「未希が無理をしていないならかまわない。嬉しいよ、奥さん」

 訂正しようとしたら優しく声をかけられる。彼のこういうところに何度救われたか、わからない。隼人さんに支えられてベッドから下りて玄関に向かう。

「出かけるまでは休んでおけ。あと、連絡忘れるなよ」

 靴を履いた隼人さんが念押しするように早口に告げてくる。口調は真面目なのに内容は過保護そのもので、つい笑みをこぼした。

「はーい」

 わざとおどけて返事をすると、そっと頬に手を伸ばされた。怒らせたかなという一瞬の不安は、唇を重ねられたのと同時に消える。

「行ってくる」

「いってらっしゃい」

 至近距離で囁かれ、照れる前に返す。隼人さんは軽く笑みを浮かべたあと、踵を返しマンションを出て行った。

 もう少しだけ休んで、回復したら買い物に行って夕飯の下ごしらえをしておこう。それから掃除して、洗濯も……。

 このあとの段取りを頭で思い描きながら、ひとまず自室に戻る。母の話はもちろんだが、それ以上に隼人さんから告げられる内容がどんなものなのかと気になってしまう。

 私たちの関係が、なにか変わるのかな?

 考えても答えは出ない。やはり疲れていたのか、また睡魔が襲ってきそうで私はそれにおとなしく瞼を閉じた。
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